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「しましょうか」は丁寧体でありながら、疑問文の性質を保っている言語形式であるため、対人関係から見れば、非常に遠慮深い表現になる。そこで、理論的に考えれば、低姿勢であるから、目上から目下へ、目下から目上へ、同等の相手へと、制限なく使われる。しかし、話し手の社会的地位が聞き手より上にある場合、特別に遠慮深く話す必要もなくなるのであろう。話し手の社会的地位が上にある場合、話し手の意志の方向がそこにいる人たちの行動の方向になるのは自然である。別に相手を配慮する必要がないから、「しよう」を使うのは一般的である。したがって、「しましょうか」を使用する話者から見れば、社会的地位が下にある人が社会的な地位が上にある人に対する発話が圧倒的に多い。次の例文は作戦課長から大将へ、士官から大佐への発話である。

（264）説明していた服部作戦課長は、大将が居眠りしているのではないかと思い、一時間あまり説明したあとで、「閣下、少し休憩いたしましょうか」と云ってみた。するとはじめてぎろりと眼を開いて、「いや、続けて貰おう」おそらく居眠りするどころか、前途の困難さにどう対処すべきかに思いを凝らしていたのに違いない。（山岡荘八『小説太平洋戦争』）

（265）第七課の部屋に駆けつけた川口大佐は、電文を読んで、しばらくのあいだ、顔を硬直させていた。担当の若い士官が訊いてきた。「いかがしましょう。明日の総長への提出書類の中に入れましょうか」川口は首を振った。「ソ連から、飛行機と石油を買うという計画を進めている。いまこんな情報を持ち出されたら、計画はご破産だ。中止が命令される。それどころか、陸軍から、対ソ連先制攻撃の方針が出されかねないぞ」「でも、ソ連が対日参戦を決めたのなら」士官の顔は不安げだった。

第７章終わりに

以上、本稿では「しよう」「しましょう」「しようか」「しましょうか」を述語にする勧誘文について考察を行った。本章では全体を通しての結論をまとめ、今後の課題を述べることにする。

１．結論

① 「しよう」を述語にする勧誘文は、構文論的な特徴として、主語がかけているのが一般的であるが、聞き手に呼びかける例が少なくない。勧誘文では、動作実行のタイミングが重要であり、それについては、「さあ」などの感動詞や時間副詞、「～たら」「～てから」などの条件節や時間節によって示される。そして、勧誘などへの応答として「しよう」が出現することがあり、これは命令文や依頼文にはない「しよう」の勧誘文に特有の用法である。語用論的な特徴として、話し手の決定に聞き手を従わせるタイプの「しよう」の勧誘文では、話し手の立場が上位であることが要求される。そうしたものは命令文の「しろ」と共存する例もよく見られる。話者の性別から見れば、男性のほうが圧倒的多い。また、切迫した状況であれば、あるいは二人の間柄が親しいならば、男女問わず「しよう」が多用されている。

② 「しましょう」の勧誘文の構文論的な特徴は、「しよう」の文とほぼ変わらない。典型的な勧誘文の場合、利益は話し手にあるが、我々を代表して話し手が行動を決定・提案する用法では、話し手と聞き手の両者に利益がある。相手の利益を考えての勧誘もある。また、普通体をベースとする談話に「しましょう」が使用される現象は話者の性別と関係があることが分かる。

③ 文の対象的な内容、とくに述語動詞の語彙的な意味と勧誘というモーダルな意味と強い相関性を持っている。勧誘文の述語動詞としては人間の具体的な動作を表すものが典型的であり、そうしたものが圧倒的に多い。心理的な動作を表す動詞や抽象的な動作を表す動詞になると、相手の意識に働きかけたり、その場の人々の意志をまとめたり、励ましや忠告したりするのに使用される。「シヨウ」には否定形がないが、「やめる」などの動詞が不実行の勧誘に使用されることができる。そのほか、勧誘文と不定語、アスペクトと共起できる。

参考文献（略）